歌蟲

 

今いるここがどんなにひどい所かなんて知らない
この世界にどんな素晴らしい場所があるかなんて知らない
何かを成そうとしているわけでもない
一緒懸命に生き 生あることが嬉しくて
ただ生きていることが嬉しくて
俺たちは歌うんだ

 

ドブ溝の底 蠢き回るクソ蟲に
春の風は吹かず 夏の雨は黒い
刺すように凍え 痛いほどに熱く
安らかさは少なくともゼロだ
だがここに生まれた蟲達は
このドブ溝の暗い水の中で
惨めなほど低いこのドブ溝の中で
人知れず 眠る

ドブ溝の底 蠢き回るクソ蟲は
青空を舞うあの鳥からは見えぬ
その鳥を喰らうあの鳥からも見えず
その鳥を撃つ あの鉄砲からも見えぬ
ただドブ溝の底で
何想うこともなく
黒いドブ水を食みながら
死ぬでもなく光射さぬ暗闇に
ただ 居る

ドブ溝の底 蠢き回るクソ蟲よ

鳥よ 空を飛ぶなら飛べ
金持ち共よ 金を稼ぐなら稼げ
偉い人達は騙し合い 奪い合い
あいつらは媚びへつらい 罵り合い

だがこのドブ溝の中のクソ蟲は
何想う訳でもないが
生ある限り生き、喰らい、眠り、そして
そして…歌うんだ

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